知的財産国際貿易裁判所設立法第 28 条及び第 29 条) 。
(10) 証拠保全に対する税関の協力: 知的財産国際貿易裁判所設立法及び関連規則には、裁
判所への提訴前における証拠保全への協力に関する規定が数多く定められている。
(11) 職権による取締り: 模倣品に関する有力な情報を得た場合、税関職員は捜査を開始す
る。
(12) 税関内の権利侵害認定機関・司法判断との関係:通関停止後、 10 日の期間内に当該物
品が侵害品であることが確認された場合、知的財産権捜査課はその事件を税関法務部 へと移送しそこで犯則者に対する罰則の言渡しと物品の押収が行われる。税関では、
知的財産権者や知的財産権に関する情報(商標の見本や権利者又は代理人に関する情 報)を知的財産局から受け取っている。
(13) 押収後の処分:犯則者に対しては物品の価額の1倍に相当する罰金が科されかつ押収
品の破棄が行われる。犯則者が出頭しない場合には、押収品は所有者がいない物品と
看做され、 30 日経過後に国の財産となる。その後、押収物品は、再利用を防ぐために
トラクターで破棄される。
(14) 税関の処分に対する異議申立制度:税関職員による決定はすべて税関長による決定と
看做され、それに対して不服あるときは知的財産国際貿易裁判所に控訴することがで きる。
(15) 税関による調停手続:関税法の罪は和解不可能な罪とされている(但し、輸入者が同
意の上で罰金を支払い、合意をなし、担保又は保証金を支払う場合には、税関長(又 は一定の場合、委員会は訴追を行わない決定を下すこともできる) 。著作権法を除く知 的財産法が定める罪は和解不可能な罪とされている。著作権法の第 66 条は「本法の定 める罪は和解可能な罪であるものとする」と定めている。したがって、輸入者と著作 権者の間で裁判外紛争処理手段による解決を行うとの合意をすることもできる。調停 や仲裁がこのような裁判外紛争処理手段として認められる。
(16) 特許権・意匠権等の侵害貨物に対する取締りの可否: 実際に通関時点で保護されうる
知的財産権は商標と著作権であり規則や書式も整備されている。実務上、税関職員に よる取締りが困難であるという理由から、特許や意匠、集積回路配置等の知的財産権 は除かれている。
(17) 間接侵害品の取締り: 上記参照。
(18) 取締りにおける課題: (X線による取締り)税関では、X線検査装置の導入を検討して
いる。しかし、 線装置は、異なる形状又は材料を有する模倣品しか発見することが できず、真正品と同一の形状・材質の模倣品を発見することはできない。輸出コンテ ナの検査を可能とする適切な装置がいまだ存在しないことは知的財産権侵害を抑止す る上での障害となっている。
B 税関における模倣品に対する取組み・政策
2004 年6月7日、税関長は政府に対し税関法の改正を行うように求める提案を行った。
同提案は、すべての疑わしい輸出入物品に対する税関の審査権限を法的により明確化する ことを求めるものである。現在、法案作成作業が行われているが、近いうちに国会に提出 される予定。
税関は、税関職員に対し知的財産権に関する訓練又は教育を与えることが必要であると 考えている。今回の調査によれば、税関職員の 70 %はかかる訓練又は教育を受けたことが あり、 40 %は過去3ヵ月以内に訓練又は教育を受けていた。しかし、税関職員たちはいま だ知的財産権に関する知識を身につけることが必要だと考えており、また知的財産権知識 の不足は知的財産権侵害取締りの上での大きな障害であると考えている。さらに、タイの 税関に提供される国際協力の多くの部分は訓練に係るものとなっている。米国、日本、 EU は、タイの税関職員を教育しその経験を分け与えるための専門家を常にタイに派遣してい る。
C 二国間・多国間における税関取締りの枠組み
タイは、 WCO に加盟している。 WCO による協力も、日米欧による協力と同様に、
主としてタイの税関職員の訓練に関係するものとなっている。 2004 年 9 月 9 日から 10 日
に WCO の IPR strategic group とタイ税関とが、模倣品と国境措置に関する WCO IPR
ワークショップをバンコクにおいて開催した。さらに 2004 年9月 28 日には、 WCO のア ジア太平洋能力構築事務所( ROCB) がクロントゥーイにあるタイ税関の1階に設けられた。
現在のところ、タイはオーストラリアとの間においてのみ自由貿易協定を締結している が、知的財産権保護に関してはその大枠に関して定めるのみである。なお、バーレーン、
中国、インド、日本、ニュージーランド、米国、バングラデシュ・インド・ミャンマー・
スリランカ・タイ経済協力機構( BIMST-EC )との間でも FTA 交渉が行われている。
日タイ協力について:日タイ間における自由貿易協定の締結を目的とした日・タイ経済 連携( JTEP )協議の下、タイ税関と日本の税関はペーパーレス貿易プロジェクトを開始 している。
D 司法(民事・刑事) 、行政エンフォースメントの取組み
TRIPS 協定は、知的財産権が基本的に私権であることを前提として制度設計を行ってい
るが、タイにおける知的財産権の権利執行は、警察のレイドによる場合が多く、そのため に知的財産権は公共的権利であると一般的には認識されている
38。こうした現状から、ど のようにして民事的救済をベースとした制度に移行していくのかという点が問題とされて いる。
権利執行における問題としては、以下の点がタイの司法関係者から指摘されている
39。 (i) 知的財産権に関する紛争は原則として和解が不可能であるとされているが、著作権につ いては例外として和解が認められている。そのために、侵害者が権利者に対して払う損害 賠償の額が、罰金よりも遙かに高くなる場合があること。 (ii) タイでは製造等の一次的侵害 行為よりも、小売業者やその従業員等の流通段階における二次的侵害行為が摘発されるこ とが多く、そうした場合、多くは小規模な業者や個人であるにすぎない。また、子供や高 齢者、貧しい女性について、侵害品であることに対して全くの善意者である場合も多い。
こうした事案において、裁判所は、禁固刑は科さずに罰金のみを科すことが多い。すなわ ち、本当に悪い者を摘発できていないという問題がある。 (iii) 最近は、違法ドラッグの販 売組織が知的財産権を侵害する物品の販売により利益を上げる方向にシフトしてきている ことがある。 (iv) 個人使用についての侵害を問うのが困難であること。 (v) 刑法によると、
摘発のために裁判所が警察に対して捜査令状を発行した場合、警察は捜査の結果を裁判所 に対して報告しなければならないことになっているが、報告されるのは 60 %程度にすぎず、
残りの 40 %程度がどのように処理されたのかは不明であること。 (vi) 侵害商品の没収のコ スト、すなわち、輸送や管理および破壊のために必要な費用を誰が負担するのかという問
題。 (vii) 税関の取締りに関する権限が明確ではないこと。
一方、 USTR による 2004 年度版外国貿易障壁報告では、有罪判決を受ける比率は高い が、汚職や、寛大な扱いを尊重する文化的な風土により、事件処理が複雑になっているこ とが指摘されており、レイドに関する警察による情報漏洩の問題、海賊行為者による当局 者・権利者に対する脅迫行為の問題も指摘されている。罰則の強化を評価しつつも、刑事 事件の場合に、当局に取締りを十分に執行するだけの予算がないことを指摘し、これによ
38 Phattarrasak Vannasaeng, Ruangsit Tankarnjananurak「ISSUES OF THE IP ENFORCEMENT IN THAILAND」季刊企業と法創造1巻2号(2004年3月)79頁。
り犯罪訴追のための権利者側が負担するべき労力が多大になる可能性を問題視している
40。
E 参考文献
【制度概要】
(1) ヴィチャイ・アリヤヌンタカ「タイの知的財産権のエンフォースメント」ICCLC19号(財団法人国際民 商事法センター、2004年7月)105頁
(2) 日本機械輸出組合『アジアにおける未登録意匠の商品形態模倣対策』(2004年6月)88頁以下
(3) Phattarrasak Vannasaeng、Ruangsit Tankarnjananurak「Issue of the IP Enforcement in Thailand」 季刊企業と法創造1巻2号79頁(2004年3月)JETRO編=井口雅文著『特許庁委託事業 タイの税関 の役割』(2004年3月)
(4) JETRO編=井口雅文著『特許庁委託 模倣対策マニュアルタイ編』(JETRO、2003年3月)
(5) J. Kuanpoth, Thailand,Intellectual Property Law in Asia (C Heath ed. 2002) (6) 日本弁理士会『平成15年度タイ国調査団報告』http://www.jpaa.or.jp/
(7) JETRO 編『特許庁委託ジェトロ海外工業所有権情報タイの工業所有権侵害事例・判例集』(2000 年3
月)
(8) Jumpon Phansumrit『知的財産権のエンフォースメント:刑事罰に関する日タイ比較研究』((財)知
的財産研究所、1998年3月)
【最近の動向】
(1) 「米国通商代表部(USTR)による2004年度版外国貿易障壁報告②」CIPICジャーナル150号(2004 年7月)28頁
(2) Sayumporn Sujintaya=Andy K.H.Leck「タイ及びシンガポールにおける知的財産権侵害物品の水際取 締りの現状」CIPICジャーナルVol.143(2003年12月)
(3) JETROバンコクセンター=経済産業省特許庁『タイ模倣被害実態アンケート調査結果』(2003年5月)
http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/jittai/jittai.htm
(4) Robert A. Arnold=Sayunporn Sujintaya=オンポーチュアン「タイおよび香港における知的財産権侵害 の取締状況と企業の対応」CIPICジャーナルVol.119(2001年12月)
(5) Sayunporn Sujintaya「タイにおける権利侵害物品の輸出入の防止---税関の役割を中心にして---」CIPIC ジャーナルVol.117(2001年10月)36頁
⑧ マレーシア
A 現行法制における模倣品等の税関取締り
(1) 模倣品・侵害品等の規制根拠:商標法、著作権法。
(2) 輸出規制:輸出も規制の対象となりうる(商標法 38 条 (1) の解釈や輸出物品申告の虚 偽記載による関税法違反を根拠とする) 。
(3) 仕向地の権利侵害の規制:規制の対象となるのはマレーシアの商標権、著作権のみ。
なお、経由品の取締り法的根拠がないためできない。
(4) 税関取締りの対象となる権利:著作権及び商標権。
(5) 不正競争防止法違反物品の取締り:対象ではない。
(6) 税関に対する登録制度:輸入差止申立制度が存在する。
(7) 侵害者管理のためのブラックリスト:不明。
(8) 税関と裁判所の情報交換:不明。
(9) 裁判所仮処分と通関手続の関係:権利者は、不正商標商品または著作権侵害物品の輸
39 同上。
40 以上については、CIPIC事務局訳「米国通商代表部(USTR)による2004年度版外国貿易障壁報告②」
CIPICジャーナル150号(2004年7月)28頁以下参照。